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【動画付き】ナチュラルキラードロップス  作者: サンライトスターライト
大学生編
5/9

雨の声

――――――――――――――――――――

ニコニコ動画にて公開中の動画の

半スピンオフ小説です。


ナチュラルキラードロップス

http://www.nicovideo.jp/mylist/44318811


雨の声

http://www.nicovideo.jp/watch/sm23933372

――――――――――――――――――――



地元から離れ、東京の大学へ乗り換えなしで一本の

父の所有する物件に入居した。


いかにも大学生が住んでそうな

そんな外装のマンションは

近くに大きな道路があり、

僕の嫌いな歩道橋が立ちふさがって翻弄する。



―――歩道橋。




僕は、歩道橋が大嫌いだ。

なるべくそこには近づくまいと心に決めた。



引っ越しの荷物は地元から1つも持ってこなかった。

7帖の収納付の部屋と広めのダイニングキッチンに

ベッドとサイドテーブルと冷蔵庫、洗濯機、電子レンジにコンロ、

タオルや多少の着替え等、それぞれを新しくネットで購入した。


それらが届き、それとなく部屋に置いても

部屋のだだっ広さはもちろん埋まらなくて溜息が出た。






大学に行くようになって数か月、

何もないこの部屋には常連客が来るようになった。


引っ越した当日から何故かベランダに居つき

エサをねだるようになった黒猫と

大学で声をかけてきた女の子達だ。


“女の子達”というのは語弊ではなくて

文字通り、複数人を指している。


大学で僕に声をかけてくる尻軽そうな女の子達は

僕の顔面に興味があり、誘ってもいないのに

家に勝手に押しかけて来る。



僕は興味がないのだ、全く、誰にも。




しかし、黒猫の方には興味があった。

黒猫がベランダに来るようになってからしばらくして

黄色いリボンとベランダでじゃれているのを見た。


そのリボンの色がどうしてもあの黄色を思い出して

僕は黒猫を飼うことに決め、窓を開けた。



「にゃー」


「お前、そのリボンどこから持ってきたんだ?」


「にゃー」



黒猫は我が物顔で、まるで自分の家の如く中に入ってきた。

しなやかな体にくりっとした目。

とても美人な黒猫だ。


それまで遊んでいた三日月色のリボンを手に取ると

真新しいことに気が付いた。



「本当に、どこから持ってきたんだ」



カラカラと窓を閉め、何もない床に腰を下ろしながら、

独り言ともとれない問答をしていると

あぐらをかいた足の間に、こちらを向きながらちょこんと座り

スウェットに擦り寄ってきた。

抱き上げると黒猫がメスだとわかる。

彼女の首にリボンを結ぶと、満足げに喉を鳴らした。



「…そうだ、名前。」



猫の名前を決め兼ねていると

突然、玄関のチャイムが鳴った。



仕方なく、名前は後にして立ち上がり、

玄関に向かいながら相手と会話をする。



「…はい」


「私!」


「どちらさまで…」




“私”とか言われても、ここは君の家じゃないし

そもそも女の子達のどれだかわからない。

いちいち名前も覚えちゃいないのだ。



玄関の扉を開けると、雨の匂いと共に

見たことあるようなないような茶髪の女の子が入ってきた。

女子大生はみんな同じような髪型や戦闘服を着ているので

違いが全く分からない。



「今日来るっていったじゃん、てゆか雨降ってて最悪!」


「はぁ、そうだっけ」


「あれ?猫?買ったの?かわいいー!ほらおいでー」


「フー!!」


「なによ!かわいくない!」


「………」



猫が自分のテリトリーへの侵入者を威嚇し

艶やかな毛並みが一気に逆立った。


それにしても、この子、誰だかわからない。

でも大学の誰かだろうとは思う。

“飼った”ではなくて“買った”というところを見ると

僕とは反りが合わないのはすぐに理解できた。



こうして僕は、自堕落な生活を

地元から300km以上離れたこのコンクリートジャングルで送っている。





その子が部屋に上がり込んでからすぐに

梅雨の時期特有のじめじめした空気をまとった夜が訪れた。


静かだった部屋は、その子の声だけが響き、

僕の相槌なんて求めてない一方的なその口が

わざわざテレビを買わなかった意味をなくしてしまう。


最終的に求めているものは

僕の顔面や体なだけなのに非常にまどろっこしい。

欲しいものはわかっているのに、暗闇を待つなんて

恥じらいがあるのか、なんなのか、

そんなことで僕はいちいち萌えたりしないのに。




しかし、その日の夜は少しだけ違った。

黒猫が部屋にいる中で、戦闘服を脱がしていく行為は

背徳感に襲われて、堪らなかった。

黒猫は終始窓の外を淋しげに見つめ、

まるで絵画の中に描かれたしなやかな猫のようだった。



「ねぇ、チカゲくんさ、

いっつも流れ作業みたいにするけど私のこと好き?」


「……」


「ねぇ、聞いてんの?」



事が終わった後で、このセリフを言うようになる女は

もう末期だ。空気の読めない女だ。

僕は君の名前も覚えてない。

君がそうして欲しいと言うから、そうしただけであって

そこに感情は一切ない。男とはそういう生き物なんだ。

大学生にもなってそんなこともわからないのだろうか。



僕の心は最初から、“彼女”だけのものだ。

誰にも、欠片も、塵一つでさえ、やらない。絶対にだ。



「なぁ」


「え!なになに??」


「始発出ただろうから、今日はもう帰ってくんない?」


「へ?」


「気分が悪いんだ」


「あ!そうだったの!何か作ろうか?」


「……そういうのいらない」


「え……なによ、人が折角気を使ってさ」


「気を使うならとりあえず帰ってくんない?」



この女は本当に頭が悪い。

“彼女”のように美しくて、聡明で、僕にとって一番いいのは何なのか

心のそこから寄り添ってくれるような

そんな女の子はもう二度と現れない。

例え現れたとしても、僕は、もう―――




それまで隣にいた女が明らかに怒ってますと言わんばかりに

身支度を済ませていた。



「鍵持ってないんだから、せめて玄関まで送ってよ!」



僕は仕方なく体を起こし、家着を着ると

玄関まで向かう。



「また来るから」


「あー、もう来なくていいよ、君、めんどくさいし」


「なっ」



気が付いたら左の頬に女の右手が飛んできていた。


黒猫が寄り添って心配そうに僕を見る。


女が湯気でも出ているかのような様子で立ち去り

やっと静かになった。

望んでいるものを与えたのに、なんて欲張りなんだろう。


望んでも、与えられないことだってあるのに。

失うことを恐れてない人間は本当に自分勝手で自由で、





羨ましい。





そうしてぼんやりとしていると

依然、名前もつけていない黒猫がにゃーと鳴き、

開いた玄関から鉄の匂いがした。

まだ雨が降り続いていたのだ。



「雨…」



雨が降るとどうしても

彼女のことを思い出してしまう。

冷静でいられなくなるような

意識が宙に漂うような

焦点が合わないままぼーっとしているけど

目線をそらせない、そんな感覚に陥ってしまう。






気が付くとそのまま近くの歩道橋まで歩いてきてしまった。

ここには近づくまいと思っていたのに


どうしても、どうしても、どうしても、どうしても

彼女を探してしまう。


しっかりしろ、もう、彼女は死んだ。

彼女はもういないんだ。この世界のどこにも。










―――本当に?










実は、そんなこと全部、僕の見た悪い夢で

もしかしたら、彼女も僕を探して泣いているかもしれない。


だって、ほら、いつも彼女は隣にいるのに

今日はいないじゃないか。

いつもいるんだから、いないなんて方が現実じゃないだろ。

いつも側にいるんだから。


艶やかな長い髪といつも抱きしめている細い肩

そう、ちょうど、あんなくらいの。


見つめる先の歩道橋の上に

その姿があった。




フミだ。




幻じゃない。




「ははは。ほらな、やっぱりそうだ!!」




僕は彼女に見せたこともない

だらしない身なりで駆け出していた。


ずぶ濡れで、髪の毛も伸ばし放題で

陽に触れることなく、栄養不足の青白い肌色をし、

わき目も振らず全力で階段を駆け上がる。



雨は止んでいき、雲の間から光が入る

歩道橋の真ん中で、したたる濡れた髪に

しっとりと陽が差し込む。




僕は、ついにフミを見つけ、その腕を掴んだ。



彼女は、彼女は、いつもの笑顔で振り返る










―――はずだった。







「え…」


「?!」





誰だ。

フミじゃない。






完全に人違いだった。しまった。やってしまった。

何をしているんだ僕は。



「あの…えーっと…誰?」



ほら、困っているじゃないか。



ずぶ濡れのその女の子は

フミによく似ていた。


でも、フミじゃなかった。

彼女よりも色白く、細身で、彼女とは違う微笑みを向けた。

明らかに愛想笑いだった。



だけど、

悲しそうなその笑みは





―――僕と、同じ匂いがした。








つづく


Twitterやってます!

感想等いただければ

ガソリンになります!!



サンライトスターライト

@sunlightstarlig


あこの(メリコP)

@acono0726



原作・執筆

あこの


ディレクト・校生

LuFS

銀縁眼鏡


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